第40回創作テレビドラマ大賞 公開講座レポート(2015/5/16)

  去る516日(土)、渋東シネタワーにて、「第40回創作テレビドラマ大賞公開講座」が行われました。

羽原大介さん
羽原大介さん

   最初に行われたのは、「脚本を書く喜びと苦しみ」と題した脚本家の羽原大介さんの講義です。NHK連続テレビ小説『マッサン』でおなじみの羽原さんのデビューのきっかけはVシネマ。そして、その後に脚本を担当した映画『パッチギ!』が大きな転機になりました。井筒和幸監督や李鳳宇プロデューサーから多くのことを学び、それが今の基礎になっているそうです。そうした中から、「脚本は末端のスタッフまで理解できるように書く」「セリフやト書きはできるだけ短くする」といった執筆の基本に加え、セリフが中心のテレビドラマと、映像が中心の映画の脚本の違いについてもアドバイス。また、「自分は絶対の神にはなれない。脚本はチームプレーで書くものなので、多くの人と意見交換して欲しい」「誰に向けた作品かを明確にして書いて欲しい」といったアドバイスも印象に残りました。実体験をもとにした話だけに説得力は抜群。受講生は目を輝かせて聞いていました。


山下真和さん
山下真和さん

  続いて行われたのは、前回の大賞受賞者の山下真和さんの「第39回ドラマ大賞を受賞して」と題した講義です。会社員をしながらコンクールへのチャレンジを続けていた山下さんは、ニホンオオカミを追う男性を描いたテレビのドキュメンタリー番組から、受賞作『川獺(かわうそ)』のヒントを得たそうです。そして資料を集め、さらに愛媛にシナハンまでして作品を書き上げました。また、前回の公開講座に参加したことも、執筆に大いに役立ったということです。昨年の受賞者で身近な存在であるだけに、受講生は後に続くべく意欲を燃やしたようです。最後に山下さんは「諦めずに書き続けてください」と受講生を励ましました。


今井雅子さん
今井雅子さん

  その後は、脚本家の今井雅子さんの「脚本はラブレター」と題した講義が行われました。今井さんはデビュー作であるラジオドラマ『雪だるまの詩』の執筆の経緯を紹介。雑誌の記事から前向性の記憶障害という症状に注目し、「出会った人の中に記憶を残すのが人生」というメッセージを思いつき、さらに「雪」という重要なモチーフにたどり着いたそうです。また、映画『パコダテ人』について、たまたま思いついた「パコダテ」という言葉が、「人間ひとりひとりの個性について書いてみたい」という以前からの思いに結びついて、作品が誕生したことを述べました。「書いた脚本は年代が違う2人以上の人に読んでもらうこと」といった実践的なアドバイスもありました。最後に今井さんは「自分が面白いと思って書くことが最も大切」という言葉を、受講生たちに贈りました。


中島由貴さん(NHK)
中島由貴さん(NHK)

  続いて登場したのはNHKドラマ部の中島由貴さんです。「ドラマ現場が求める脚本/脚本家」と題して、先輩の制作者など様々な方の言葉を引用しながら、制作現場から見て脚本とはどうあるべきかを紹介。「脚本はテレビドラマの魂である」「人間を描写するのが脚本である」などの印象的なフレーズが次々に飛び出しました。また、映画『レザボア・ドッグス』『ソーシャル・ネットワーク』を例に、セリフについて解説。「セリフは人間を描写する手掛かりの一部にすぎない」「想像力や共感の余地を残した余白のあるセリフを書く」「会話はスリリングであるべきだ」「自分で書いたセリフは声に出して読んでみる」といったアドバイスがありました。さらに、脚本家を目指すにあたって、「心の師とも呼べる師匠を見つけて、その人を目指して努力するとよい」というお話もありました。深みのある言葉の数々が、受講生を大いに刺激してくれました。

 

左から 吉村ゆうさん、羽原大介さんさん、今井雅子さん、中島由貴さん(NHK)、堀切園健太郎さん(NHK)
左から 吉村ゆうさん、羽原大介さんさん、今井雅子さん、中島由貴さん(NHK)、堀切園健太郎さん(NHK)

  この日、最後に行われたのは座談会です。羽原大介さん、今井雅子さん、中島由貴さんに、NHKドラマ部の堀切園健太郎さんが加わり、脚本家の吉村ゆうさんの司会で「大賞をとれる脚本 とれない脚本」 と題して様々なお話がありました。良い脚本の条件としては、「今なぜこれを書くのかがわかる脚本」「客観性を持たせた脚本」「書き手の熱量が感じられる脚本」「視聴者に一緒に経験してもらえる脚本」などが挙げられました。そうした脚本を書くためには、「足で歩いて取材をすること」や「誰かに脚本を読んでもらうこと」が大切だというアドバイスがありました。また、コンクールは既存のドラマと違って自由に書けるので、「思い切ってトライするべきだ」というお話もありました。会場からは「キャラクターの組み立て方」「テーマはどうやって見つけるのか」などについて質問があり、講師が回答しました。

 

  座談会の最後には、講師から受講生へメッセージが贈られました。「たとえコンクールに落ちても生き残る道はある。簡単に諦めずにチャレンジを続けて欲しい」(羽原さん)。「コンクールは参加するだけでも意義がある。とにかく最後まで書いて欲しい」(今井さん)。「50分のドラマに盛り込むことはそう多くない。欲張って盛り込み過ぎないようにして欲しい」(中島さん)。「アドバイスされたことを本気でやれるかどうかが大切。覚悟を持って書いて欲しい」(堀切園さん)。皆さんの温かく力強いメッセージは、受講生の気持ちを大いに奮い立たせたのではないでしょうか。


  最後は予定時間をオーバーするほどの盛り上がり。どの講師も熱心にお話されて、その熱意が受講生にしっかりと伝わっていました。毎回バラエティーに富んだ講師が登場するこの講座ですが、今年は例年以上に多彩な講師陣。いずれも実体験をもとにした話が中心だっただけに、興味深いものでした。執筆に向けた具体的なアドバイスはもちろん、脚本の神髄を知ることができた講義で、私を含め受講生にとって、コンクール応募をはじめ今後の執筆活動に役立つ内容だったと思います。この日学んだことを今後に生かしていきたいと思います。

                (セミナー受講生 )