「ラジオドラマ公募脚本の書き方講座」                                          -第46回創作ラジオドラマ大賞公開講座-レポート(2017/11/11)

  去る1111日(土)、渋谷道玄坂フォーラム・エイトにて、「第46回創作ラジオドラマ大賞公開講座」が「ラジオドラマ公募脚本の書き方講座」と題して行われました。

 

 

脚本家・藤井香織さん
脚本家・藤井香織さん

   日本放送作家協会のさらだたまこ理事長による激励の言葉に続いて、脚本家の藤井香織さんによる「ラジオドラマ脚本家という仕事」と題した講演が行われました。その中で藤井さんがアドバイスしたのは、「ラジオドラマをたくさん聴くこと」です。「ラジオドラマには独特のリズムがあります。コンクールに応募するなら、実際にラジオドラマを聴いてそのリズムを体で覚えるようにしましょう」とお話しされました。藤井さんも実践して作品を書いたそうです。

   また、藤井さんは聴き手の立場に立って脚本を書くことの大切さも強調されました。SE(効果音)なども聴き手が場面を想像できるように使わなければいけません。そして「脚本を書いたら音読してみましょう。それによって聴き手がどんなふうに感じるかが理解できるはずです」ともお話しされました。自分勝手な脚本ではなく、常に聞き手を意識して書くことの大切さが伝わる講演でした。

 

 

NHK吉田努さん
NHK吉田努さん

   続いて行われたのは、NHK演出家の吉田努さんによる「ラジオドラマの脚本作り~制作者の視点から」と題した講演です。吉田さんは、自身が演出した連続テレビ小説『ちりとてちん』を例に、テレビドラマの脚本について解説した上で、「ラジオドラマも映像が重要。聴取者の脳内に映像を想像させる脚本でなければいけません」と指摘しました。それを音だけで実現するには、脚本でセリフ、モノローグ、SE(効果音)などを使って状況を説明しなければいけません。ただし、説明しすぎると聴き手の想像力を阻害してしまうので、ある程度の余白を残しておくことも重要だとのことです。

   また、吉田さんからは「主観と客観」というお話もありました。「ドラマには主観と客観という二つの視点があります。ラジオドラマは主観に向いているので、その強みを生かしてもらいたい」。そのためにモノローグは重要な武器になりますが、使いすぎるのもよくないとのことでした。それ以外にも様々な現場サイドからのお話があり、脚本を書く際に大いに参考になる講演でした。

 

 

脚本家・藤沢秋さん
脚本家・藤沢秋さん

   その後は、前回の大賞受賞者の藤沢秋さんが「創作ラジオドラマ大賞、受賞作のこと、制作された作品のこと」と題して講演を行いました。藤沢さんは受賞作『暗闇の訪問者』の執筆の経緯について、「もともとはテレビドラマ用に書いたのですが、脚本塾で指導していただいている北阪昌人先生や仲間たちから『ラジオドラマ向きの素材だ』という言葉をもらい、全面的に書き直しました」とお話されました。その作業は大変でしたが、音からどんな絵が想像できるかを考えながら完成にこぎつけたそうです。

   また、藤沢さんは受賞作の収録現場の様子も紹介してくださいました。現場では役者さんなどから細かな質問もされたそうで、ディテールまできちんと考えて書くことが大切とのことでした。放送後、たくさんの人から反響があったと聞き、あとに続く受講者たちも元気と勇気をもらえる講演でした。

 

 

左から井出真理さん、さわだみきおさん、藤井香織さん、吉田努さん
左から井出真理さん、さわだみきおさん、藤井香織さん、吉田努さん

   この日、最後に行われたのは座談会です。藤井さん、吉田さんに、脚本家のさわだみきおさんが加わって、脚本家の井出真理さんの司会で、事前に受講者から寄せられた質問に答えてくださいました。

   その内容は多岐にわたっていましたが、「コンクールの審査で重視することは?」という質問に対して、さわださんは「今までに見たこともない設定や展開がある作品」。藤井さんは「自分が書きたいことを書いて熱が伝わってくる作品」。吉田さんは「セリフなど、どこかに圧倒的なものが感じられる作品」と、それぞれ答えてくださいました。

   また、「応募要項を守るのは最低限の条件」「書式に注意して、審査員が読みやすい原稿にする」などのアドバイスもありました。「受賞しやすい作品の傾向は?」という質問に対しては、「受賞作品の傾向や流行を気にするよりも、思いがこもった作品を書くことが大切」というお話でした。

 

 

   コンクールに限らず、ふだんの執筆に関するお話もありました。さわださんは、ラジオドラマを書くにあたって詩を勉強したことがとても役に立ったそうです。一方、藤井さんはふだん街中などで人の会話に聞き耳を立てて、それを作品に活かすこともあるそうです。気になったアイデアはスマホに書き留めておくとよい、という吉田さんのアドバイスもありました。また、さわださんは、集中力を保つために作品に合った音楽を聴きながら書いているという執筆の裏話を披露してくださいました。

   さらにラジオドラマに携わる魅力について、藤井さんは「スタッフとの一体感が好き。皆さんの想像力を喚起する素晴らしい仕事です」、吉田さんは「テレビでは1人の演出家がやれることは限られているが、ラジオドラマは企画からすべてにかかわれる」と、それぞれ語ってくださいました。最後は質疑応答が行われ、公開講座は終了しました。

 

 

   この日、会場に集まった受講者は年齢もキャリアも様々ですが、皆さん、真剣に講師の話に耳を傾けていました。一般にラジオドラマというと、テレビドラマに比べて地味な印象があります。この日の受講生の中にも、ラジオドラマを一度も聴いたことがないという人がいました。しかし、最近はスマホやパソコンでラジオを聴く若い人が増えているそうです。受講者からラジオドラマの今後について問われた吉田さんも「ラジオはインターネットと親和性が高いメディア。まだまだいろいろな可能性があると考えます」と答えていました。応募に向けた細かなテクニックや執筆の心構えを学ぶとともに、ラジオドラマの今後の可能性を確認できたことは、受講者にとって大きな収穫だったと思います。今回の経験をコンクールへの応募はもちろん、様々な執筆活動に生かしたいと思います。