「ラジオドラマ公募脚本の書き方講座」                                     -第47回創作ラジオドラマ大賞 公開講座- レポート

   去る1110日(土)、渋谷道玄坂フォーラム・エイトにて、「第47回創作ラジオドラマ大賞 公開講座」が「ラジオドラマ公募脚本の書き方講座」と題して行われました。

 

脚本家・中澤香織さん
脚本家・中澤香織さん

   日本放送作家協会の井出真理常務理事の挨拶に続いて、第1部では脚本家の中澤香織さんによる「“ラジオドラマだから”こう書く」と題した講演が行われました。中澤さんは、ラジオドラマの場面転換について解説しました。テレビドラマの脚本は、柱を立てて場面転換しますが、映像のないラジオドラマでは、なるべく効果音を使って場面転換をします。セリフを使って場面転換をする場合もありますが、「モノローグを状況説明に使うのはできるだけ避けた方がいい」とのことでした。また、中澤さんはシーンの長さの違いも指摘されました。映像で多くの情報を見せられるテレビドラマなら、短いシーンにするのもありですが、ラジオドラマは聴き手が想像を広げるのに時間がかかるので、「ていねいなセリフで長めのシーンにする必要がある」というお話でした。テレビとラジオの脚本の違いがよくわかる実践的な内容の講演でした。

 

脚本家・出川真弘さん
脚本家・出川真弘さん

   続いて、前回の大賞受賞者の出川真弘さんが「ラジオドラマ大賞と受賞作のこと」と題して講演を行いました。出川さんは受賞作『灰色のカンバス』の題材について、「今の時代のドラマを書きたかった」とお話されました。執筆にあたっては、ベトナム人の技能実習生が登場することから、多くのベトナム人と会って取材をしたとのこと。また、応募前には第三者に作品を読んでもらい、その感想をもとにギリギリまで推敲を重ねたそうです。最後に、受賞作が放送された経験を踏まえて、「すべての役者やスタッフの方に“やってよかった”といってもらえる作品を書きたい」と今後の抱負を話されました。出川さんの後に続こうとする受講者たちの背中を押してくれる講演でした。

 

NHK演出家・小島史敬さん
NHK演出家・小島史敬さん

   その後は、制作サイドからNHKオーディオドラマ斑チーフディレクターの小島史敬さんが、「こんな新人脚本家、求ム!」と題した講演を行いました。小島さんがディレクターとしてこだわっているのは、「書き手として何を伝えたいか」「聴き手にどんな気持ちになって欲しいか」が明確な作品であること。そこでは何よりも主人公自身のドラマが重要になります。具体的なドラマ作りの例として、「青春アドベンチャー」で中澤さんと脚本を練り上げた経験などもお話されました。また、キャスティングの決め方などについてのお話もありました。最後に応募作品の題材選びについて、「今の時代、この先の時代をどう見るか」という視点が重要だとアドバイスされました。現場ならではのお話が満載で、とても興味深い内容の講演でした。

 

(左から)脚本家・小林克彰さん、中澤香織さん、脚本家・北阪昌人さん、小島史敬さん、脚本家・井出真理さん
(左から)脚本家・小林克彰さん、中澤香織さん、脚本家・北阪昌人さん、小島史敬さん、脚本家・井出真理さん

   続く第2部では座談会が行われました。中澤さん、小島さんに、脚本家の北阪昌人さんと小林克彰さんが加わって、井出真理さんの司会で事前に受講者から寄せられた質問をもとに様々なお話がありました。「脚本のネタの見つけ方」「素材はどうやって膨らませるのか」「モノローグの使い方」「SEや音楽の使い方」など、どれもすぐに脚本執筆に役立つテーマばかりでした。例えば北阪さんは素材の膨らませ方について、抽象的なままではなく、シーンに置き換えて考えることをアドバイス。また、小林さんは「異なった素材を組み合わせるなど、妄想を広げて考える」とお話されました。一方、中澤さんはモノローグについて、「書いている時は違和感がなくても、放送されると長く感じることがある。多用するとテンポが悪くなる」と指摘しました。小島さんはSEの使い方について、「場所を表したり、人物の行動を表現するのが基本」とお話されました。

 

   会場からの質問に対しても、講師の方々が熱心に答えてくれました。例えば「主人公の書き方」について、「余白が多い方が聴き手の共感を呼びやすいので、あまり書き込みすぎないほうがいい」というアドバイスがありました。「登場人物のプロフィールは詳細に書いたほうがいいのか」という質問に対しては、「無駄になるかもしれないが、きちんと書いたほうがいい」「プロフィールは大切だが、それにとらわれすぎずに、いつでも変えられると考える柔軟性が必要」といったアドバイスがありました。

 

挨拶するさらだたまこ理事長
挨拶するさらだたまこ理事長

   座談会の最後には、4人の講師の方が応募に向けて受講生にエールを送りました。「聴き手が主人公に共感し、のめり込めるドラマを書いてください」(小島さん)、「ラジオにはとても面白い世界が広がっています。できるだけ早く書いて推敲を!」(北阪さん)、「リアクションで物語が進むのではなく、主人公が行動するドラマが聴き手に伝わります」(中澤さん)、「同じようなテーマではなく、“今、これが問題なんだ!”と気づかせるドラマを書いてください」(小林さん)。最後に、日本放送作家協会のさらだたまこ理事長から激励の挨拶があり、今回の公開講座は終了しました。

 

   創作ラジオドラマ大賞の応募の締め切りまで3か月を切った中、この日、会場には大勢の受講生が詰めかけました。年齢もキャリアも多様な皆さんですが、真剣に講師の話に耳を傾け、座談会では質問が相次いで予定時間をオーバーするほどでした。特に今回の講師の脚本家の皆さんは、いずれもコンクールをステップに第一線に羽ばたいただけに、受講生にとっても身近でより役に立つ内容の講座でした。また、今日の講座を通して、一見地味に思えるラジオの世界に明るい未来が待っていることも実感できました。来たるべき創作ラジオドラマ大賞への応募に強い意欲を持つ人も、迷ったり弱気になっていた人も、今日の講演を聞いて勇気をもらえたのではないでしょうか。応募に向けてはもちろん、ふだんの創作活動にも大いに刺激になる講座だったと思います。